Atelier moo のメープルシロップについて

メープルシロップ製作の季節を迎えています。
我が家では楓だけでなく胡桃からも同じようにシロップを作っていて、合わせて50余本の木から樹液を採集させてもらっています。奈良田では立春前後、木ごとにピークは異なりますが、それぞれの木から、おおむね3週間くらいの期間しか採集できない貴重な樹液です。
毎年、いつ、どの木からどのくらいの量の樹液が採集できたか、毎日の天気や気温などとともに記録をつけていて、特に今季に入ってからは、楓と胡桃の性格(植物生理)の違いをはっきり認識できるようになって、「あそこのあの木がよく動いている」と、木ごとのその日々々の予測も立つようになり、何時までに回収したい、回収してきた後のためにどのくらいの薪を用意しておかねば、と段取りも良くなってきました。

樹液を採集させてもらっている木はどれも、地域の自然環境の中で自然に生えたもので、植えて栽培したものではありません。楓も胡桃も、単独の樹種でまとまって生えていることはなく、混交林(2種類以上の高木が混ざり合った雑木林)の中にあります。その中にあるイタヤカエデ、ウリハダカエデ、オニグルミを見つけて樹液をいただきます。
樹液をいただくには、木を傷つけて採り口を作ります。毎年、新たな採り口を作ります。採り口が多ければ、その分採集できる樹液も増えるはずですが、私たちは、樹液をいただく採り口は、木の1本につき1つだけと決めています。
なので50余本の木から樹液を回収するには、相当の広い範囲の山を歩いて、1本々々見て回ります。

回収してきた楓と胡桃の樹液は別々に、なるべく早く煮立たせます。うちではまず、ホンマ製作所の時計型ステンレスストーブで薪を利用して沸騰させます。極端に多い日では回収した樹液が200L近く及ぶこともあり、2月中は外出する用事はほとんど入れることができず、少なくとも僕か(わ)が付きっ切りです。薪の確保はほかの季節でもできますが、かなりの労力を要します。
なるべく長く薪で煮詰めていきたいところですが、順番待ちの貯まった樹液がたくさんあり(いまも、前日に回収してきた100L余のカエデ樹液を火にかけながら文章を書いています)、また連日のように新たな樹液を回収してくるのでストーブだけでは間に合わず、沸騰した樹液は徐々に屋内に移し、火力が強く安定している3重のガスコンロで煮詰めていきます。

メープルシロップも胡桃の木シロップも、最終的には糖度55%にしますが、製作期間が長いので、まずは糖度30%くらいまで煮詰めて、一度冷凍保存します。楓も胡桃も、山から採集した樹液の原液は糖度1%くらいなので、一時保存の段階でも体積が1/30以下になるまで煮詰めます。煮詰めていきながら、丁寧に灰汁取りをしていきます。かなり根気のいる作業ですが、保管スペースの確保と、シロップの酸化や発酵を抑える意味もあり、一度煮詰め作業を始めた樹液は、一気にこの段階まで進めます。
メープルシロップには国際基準のグレード(等級)があり、光の透過率で上位から「ゴールデン」「アンバー」「ダーク」「ベリーダーク」の4段階があります。糖度が10%を超えたあたりからは火を弱め、シンプルな使い方で楽しんでいただける高グレードの仕上がりになるよう、じっくり煮詰めていきます。弱火でじっくりゆっくり煮詰めていくのは完成に至るまでの最終段階でも同じで、樹液100%、薬品や添加物は一切使用しません。胡桃の木シロップでも同じです。ありきたりな言葉ですが、高品質のシロップを製作するために、手間暇をかけています。

国産のメープルシロップには、北米のメープルにはない、日本の森の、その土地ごとの個性が表れています。国産のものは希少ですが、どの産地でも同じように丁寧な仕事をしていると思います。外食では得られない、ご家庭で味わう贅沢品として、森の声を楽しんでください。外国産のものと比べると価格も割高に感じられるかもしれませんが、ご理解いただければ幸いです。

採り口の傷は、木それぞれの自然の治癒力によって塞がれます。翌年には塞がっている木も多く、数年後にはどこに採り口があったかさえ分からなくなります。採集できる樹液が多い木ほど、早く治癒するように思います。自然の治癒力が発揮しやすいように、大きな木の中で、どの場所に採り口を取るか、これは経験則だけではなく、植物生理学の知識も役立ちます。
採り口を作って樹液を採集したことで樹勢(木の元気さ)が失われたことはありません。幹は毎年太くなっていきます。伐ることを前提とする林業とは異なった森林利用形態で、自然のままに木を生かしつつ、小さくとも、長期間わたる森林育成ができると思っています。私たちのような新住民にとっては、狩猟やきのこ採集などと比べればはるかに取り掛かりやすい、地域に根付いた環境技術であり、地域資源の循環利用と地域経済の活性化の両立を目指し、これからも大切にしていきたいと思っています。


(ゆ)